【140】 安倍首相辞任2 −最後まで無策だったの首相周辺−    2007.09.14


 昨13日辞任を表明した安倍晋三首相は、その日の午後慶応義塾大学病院へ入院した。検診に当たった日比紀文教授は、「1カ月以上前から、食欲不振や胃もたれなどの症状が弱い状態だが始まっていた。非常に疲れが進み、食欲が落ちている。少なくとも3〜4日の入院が必要」と述べている。
 尾籠な話で恐縮だが、 政治評論家の中西輝政氏(京大教授)が、昨年の政権発足時に「安倍晋三は大事な局面になると下痢便をもよおす」と書いていた。 生来、消化器官が弱かったのだろう。
 それでも首相の職責は厳しいもので、今回の辞任についても、国民は政権を投げ出したという見方をしている。誰かが、「売り家と 唐様で書く 三代目…辞任である」と言っていた。そうか、かつて私は2代目の脆弱さ…と書いたけれど、2代目でなくて3代目だったのだ。
 う〜ん、体をボロボロにしながら、遠くの大きな課題を見つめて全力投球を続けてきた安倍首相にはちょっと気の毒な気もするけれど、世間から見たらそういうことなのだろう。


 ただ、安倍晋三の辞任を、国民が冷ややかに眺め、英紙フィナンシャル・タイムズが1面で「武士道ではない。臆病者だ」と報じたほどの酷評に晒したというのは、やはり官邸側近をはじめとする安倍首相の周辺の問題だろうと思う。
 福岡の友人から、『国内外的にも倒れてほしかった。パートじゃないんだから…』とメールが来た。そう、安倍退陣に、男の花道を用意し、政治的空白を作らない方法があったのではないかと、私も思うのである。
 この3代目に、せめて唐様で書く習字じゃなしに演劇を習わせて、国民も、身内の内閣も、小沢一郎も、アメリカのCIAも…、皆んなを煙に巻く迫真の演技…、本会議場で倒れるぐらいの演出をしてほしかったというわけだ。そうしたら、小沢民主党は一挙に悪者だったのに…(笑)。
 本会議場で代表質問を受けている最中…、長妻議員の70何か条か用意していたという年金問題の質問に、最初は、「断固許せない。責任者の厳正な処罰と、少しでも横領の疑いのあるものは全額支給することを 職を賭してお誓い申し上げる」なんて、どうせ倒れてチャラになるのだから、思いっきり国民受けするようなことをブチ上げて、10条ぐらいに来たら、「ウウッ…」とか言って その場に崩れるように倒れ込む…。そのまま担架に担がれ、救急車で病院へ…。
 これなら国民も、「安倍さん、かわいそう。ここまで真剣に国民のことを考えていてくれたのに、ロクでもない大臣たちや小沢一郎に、命を縮められて…」なんて同情し、全てを許すだろう。歴史に残る宰相になっていたかもしれない。
 

 相次ぐ辞任者を出した閣僚の身体検査の杜撰さに象徴されるように、首相周辺の無能振りにはあきれ返る。
 今年4月号の文芸春秋に、こんな記事が掲載されていた。『佐藤栄作政権以来40年にわたって首相秘書官室で実務を支えてきた女性職員が退任の意向を漏らした。小泉前首相が、この春定年を迎える彼女を、安倍内閣の船出への置き土産として4年間の定年延長手続きを取ったものだが、安倍の政務秘書官・井上義行の「よろしくと、向こうからの挨拶がない」という鼻息に、辞任の意思を固めた』というのである。
 内閣官房室勤務を含めて官邸勤務は5年にも満たず、永田町や霞ヶ関には全く顔が利かないという井上が、19人の歴代首相に仕え、官邸に出入りする人間のほとんどが世話になってきたというベテランをないがしろにするというこの構図に、お坊ちゃま官邸の脆弱さを見るのは私だけだろうか。若手の実務者がベテランを敬愛して学び、ベテラン職員が若手の実務を補完してこそ、組織は安定して機能するというものだろう。
 しかも、この実務者たちは、「戦後レジゥムからの脱却の重要性」も、「テロ特措法延長の必要性」も国民の理解を得るような説明ができず、アメリカ下院議会では歴史的な検証も行われていない「南京大虐殺による日本非難決議」すら回避できなかったという、無能集団である。安倍首相の最後の花道を華々しく飾れといったところで、無理というものか。
 

 本会議場での昏倒…ということならば、今頃は慶応病院のベッドの上で、「喫緊の難問が山積している現在、国政を一刻も停滞させることはできない。ここは、危機回避的に○○氏に政権を担当してもらって、難局を打開してほしい」なんて、唐様の禅譲書をしたためることができたのではないか。
 政局は、安倍批判から、一気に福田康夫支持に傾いている。ここは、派閥政治、利益誘導といった旧来の政治文化に逆戻りすることなく、改革の到達点を見つめ続けて内政に果敢な決断と強い指導力を発揮し、国際社会で堂々と行動することができる指導者の登場を求めたい。
 自民党に人材が枯渇していることは否めないが、政権交代が現実の重みをもって迫っている今、次の内閣を率いるものは、自民党政権幕引き内閣…と揶揄されようと、内政・外交に不退転の決意と責任を持ってあたる内閣総理大臣を望むものである。


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